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はい、第3弾です。
グダグダ感の続く当ブログですが、ま、しばらくの辛抱です。たぶん。
じゃ、いつも通り参りましょうか。

 

 
 春、うららかな日差しの中、その雰囲気にそぐわない音が轟いた。

 

「ギャギャギャギャァ~~……ギュィィィィィィン――」
 明らかに遠いところでしているはずなのに、衝撃波の影響で窓ガラスはカタカタゆれ、咲いたばかりの桜の花びらがはらはらと何枚か散った。
 しばらく進むと不毛の地に着いた。
 その真ん中に一人の男が刃渡り二メートルの包丁を〝素振り〟している。
「ふんぬふんぬふんぬふんぬふんぬふんぬふんぬふんぬふんぬふんぬふんぬぅっ!」
 一秒間に数十回も振り回す彼の名は佐藤忠孝。巨匠と呼ばれるその日を夢見て日々鍛錬に鍛錬を重ねている。
 それが、この二メートルを超える包丁の素振りである。
 素振りをする理由は、筋力をつけるためではない。それが理由であればただの馬鹿であるが、それが、
「かつて自分と同じくらいの年齢の人が対決した、自称〝料理人オタク〟にとっては、あこがれの場所だから」
 と言うのだから話は別となる。
 実は彼が立っている場所は、かつて湖があり、日に照らされて輝いていた。
 しかし、二十年ほど前、今や深海魚の大家で、かつ「小林鮨」の大将でもある小林金作と、現在ローカルテレビ局に三本の料理番組を掛け持ちしている、一文字(現 小林)菊千代が料理対決を行いこの辺りを不毛の地に変えてしまった。
 この戦いを見守っていたはずの『味のソナタ』(通称『味ソナ』)の面々は、その対決の影響によって途中で避難、その他の周りで応援していた者たちもケガ人多数で最後まで見届けたものは一人もいない。
 よって結果を知っているのは当事者の二人のみである。
 そんな場所で毎日素振りをしていたため、湖の水さえ干上がってしまった。
 こんな佐藤も、自称〝料理人オタク〟だけあって、二人の通った料理学校に在籍している。
 しかし彼には、一般人と異なる特徴がある。
 それは、料理の途中で出来上がりの品が変わると言うものだ。
 要するに、カップ麺にお湯を注いで三分するとチャーハンが出来ていたり、電子レンジでグラタンをチンして取り出したときには、たらこスパゲッティーになっていたり、カレー粉・ニンジン・玉ネギ・ジャガイモをグツグツ煮込んで秋刀魚の塩焼きが出来上がったりとなるわけだ。
 決して、「落とし蓋」と言われて床にふたを落としてみたり、「隠し包丁」と言われてキャッキャ言いながら思い思いに包丁を隠しに行ったりするレベルではないので、ひとまずちゃんとしたものが出てくる点では気にする事はないと思うが、彼はそれをクセだと考え、それを直すために料理学校に入学した。
 二十年以上校長を務める辻十条は、彼を入学させてから後悔した。
 理由はもちろんあの素振りである。
 その素振りをわざわざ近くの〝古戦場〟でしてくれるものだからたまったものでない。
 無理矢理退学させようにもあの包丁を、それも校舎で振り回されたりしたら、被害は甚大だ。
 こうして今も彼はこの料理学校の生徒である。
 しかし、当然と言うべきか彼の特技ゆえに友達も出来ず(と言うよりケガをしかねないので近付けず)独りでいることが多かった。
 そんなある日彼の前に、一人の男が現れた。
 名は(はた)素文(もとあき)。彼にも佐藤に負けず劣らぬ特徴がある。
 それはダンスとのコラボという料理法である。ある時は軽やかに、ある時はきびきびとリズムを取りながら踊り、料理を作っていく。そして、彼らのような者には付き物なのか、素文も亜音速で包丁を振り回し辺りを不毛の地に変えられる。
 お互い知らないわけではなかった。故に、出会うことも決して偶然ではなかった。
 開口一番素文は、こう言い放った。
「力だけではワシには勝てんぞ、佐藤忠孝。大事なのは〝熱意〟だ」
 どんな欠点も「熱意でカバー」と言いたげな言葉に、さすがの佐藤もツッコミかけた。
「別に勝負しようとは思わんが?」
「何を言う。お互い、お互いの事を意識してきた仲。一度は勝負する必要があるはずだが?」
 勝手に仲間意識を持たれた上に、勝負をすることは当然といわれてしまった佐藤は、呆れてしまった。
「で? いつどこでやるつもりだ?」
「場所はもちろんあのくぼ地、日時は今日の放課後だ。楽しみにしているぞ」
 その、二枚目な顔には似つかない大河ドラマ的セリフ回しの後、高笑いをして廊下の向こうへ消えていった。
 この話を幸か不幸か辻校長も聞いてしまった。
 辻校長は葛藤した。止めたいが二人の波動で今度は命が助からないのではないか? いやしかし、二十年前のように開催させたとして、この辺りの土地は彼らの殺人的波動に耐えられるのか? どちらの道を選んでも待ちうける未来は、破滅の道しか残っていない! これは参った。何かよい方法はないのか!
 校長は三日三晩悩み続けた。
 そして校長はその後、あまりのストレスにより学校を退職したという。
 一方こちらは、放課後の〝古戦場〟。
 いつの間に用意したのかキッチンコロシアムがそこにあった。
「準備はよいか、佐藤忠孝。では、始めるぞ」
 そう言ったか否かという内に、そこは異空間に変わった。
 二人の亜音速の包丁の動きで、食材が宙に浮き、そうこうするうちに、それは適当なサイズに切り分けられていった。
 彼らの周りは真空に近い状態となっているのだが、二人のその空気の壁がぶつかる所にはまぶしい火花が散っており、空気のボールの様な物の中にいる二人はキズどころか汗さえ流している。素文に限って言えば、亜音速で包丁を動かしているはずなのに、タンゴのリズムで踊っている。
 佐藤は、日頃の鍛錬のおかげか包丁捌きは文句なしなのだが、やはり、刺身はいつの間にか親子丼へと変化していた。
 二人が二十年前に迫る勢いで料理対決を繰り広げるなか、周囲は地獄絵図と化していた。
 空には暗雲が立ち込め、大地はとうとう耐え切れず亀裂が走り、何故か遠く離れたヨーロッパで突如、山火事が起こり、その他災害が立て続けに起きた。
 このような事態に、何故かアメリカが核兵器の使用も辞さない構えで日本政府に詰め寄ろうかとした時、ようやく二人の料理対決は終了、数々の災害もおさまった。
 審判がいないわけだから、勝ち負けもないのだが、彼らは十分満足だった。
「佐藤忠孝。おぬしのその力、そして独特の料理法恐れ入った。しかしこれで引き下がるワシではないぞ。また己の技を磨いておぬしと戦いたいものよ」
「別に、もう一度戦いたいとは思わんが、何だかすっきりした。もっと自分の力を最大限発揮できる場が欲しい」
 こうして、ここに新たな伝説が刻まれた。
 
                ★
 
 これは余談だが、数年後、この勝負の当事者の一人、畑素文著『不順応な料理人たち』(条談社 定価千五百円)によって、佐藤忠孝のことや、彼との料理対決の感想などが書かれている。読む限り、彼との出会いは、相当刺激的なものだったようだ。
 一方の佐藤のほうだが、料理人としての修行の為、チベットのラサに向かったそうだが、その後消息を絶ったまま所在や生死さえも分からなくなっている。
 
 
                        《こんな話続きません》
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小林鮨のオーナーです
 ここまで露骨に書かれると照れるな~(^▽^;)
 でも、作品のノリはナイス。
 テンションの高さが後半まで続いているので、楽しく読む事が出来ました。
李亀醒 URL 2007/03/24(Sat)14:08: 編集
よかったぁ♪
ちょっと心配だったんですけど、オーナーに認めてもらえて安心しました。これで胸を張って冊子を送り出せます。
黒尾のおやじ 2007/03/24(Sat)15:30: 編集
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年齢:
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性別:
男性
誕生日:
1986/05/09
職業:
大喜利見習い
趣味:
たましい大放出をやめないこと
自己紹介:
京都府民。よく「京都人」と言われるが、あれは「京都市(の一定区域内)に何世代も住んでいる京都市民」という意味であって、私がどこに住んでいようが「京都人」と呼ばれる日は無い。残念。
最近は、もはやマンガ読みな人になって、小説やら新書やらが読めてない。ぐわー。だから、このブログが消される危機に曝されたり結構愉快なことになってた今日この頃。もうちっと、ここで頑張らせていただきたかったり、いなかったり。(え
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